フィリピン人の再婚について

フィリピンは離婚が認められない国ですが、日本人と婚姻したフィリピン人は離婚できないのでしょうか?

 

2018/05/01

いきなり本質をつく質問ですが、回答は読み続けていただければ、「もやもや」と解ってきます。「もやもや」とは曖昧な表現ですが、フィリピン家族法と制度を深く知れば知るほど、霧が濃くなって実態が見えなくなってきます。 
先に明確に言える事は、日本人とフィリピン人が婚姻した場合、日本に住所を有する限りにおいて、日本人は離婚することはできます。

 それは法の適用に関する通則法(国際結婚・離婚のように二か国以上の法律が関係してくる場合にどの国の法律を適用するかを決めた日本の法律)によれば以下の通りであるからです。

(婚姻の効力)
第二十五条  婚姻の効力は、夫婦の本国法が同一であるときはその法により、その法がない場合において夫婦の常居所地法が同一であるときはその法により、そのいずれの法もないときは夫婦に最も密接な関係がある地の法による。
 
(離婚)
第二十七条  第二十五条の規定は、離婚について準用する。ただし、夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人であるときは、離婚は、日本法による。
 
 


 

2018/05/03

「夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人であるときは、離婚は、日本法による。」
 
日本法によれば、協議離婚(民法763条~)、調停離婚(家事事件手続法268条)、裁判離婚(民法780条)、ごく稀に審判離婚(家事事件手続法280条)で離婚が成立します。また裁判離婚では判決による離婚の他、和解離婚及び認諾離婚(人事訴訟法37条)もありますので6種類の離婚がある事になります。どの方法でも、夫婦の一方が日本に常居所があればフィリピン人と婚姻した日本人は日本法により離婚することができます。
 
6種類の離婚の件数と百分率を2015年人口動態調査の統計をみると、以下のようになります。
          件数         百分率
協議離婚         198214                         87.6%
調停離婚     21730                           9.6%
審判離婚           379                           0.2%
裁判離婚(和解)   3491                           1.5%
裁判離婚(認諾)        18                              0%
裁判離婚(判決)  2383                            1.1%
 
協議離婚と調停離婚で97.2%に達します。日本人とフィリピン人の離婚に関しても比率はほとんど変わらないものと思われますので、日比国際離婚の大多数も協議離婚又は調停離婚で日本人は離婚したことになります。
日本人が離婚したことにより、相手方フィリピン人はどうなるでしょうか??


フィリピン法には離婚がありませんので、フィリピン人は日本人に離婚されたと表現するのが適切であると思います。
整理するとこうなります。
日本人はフィリピン人と婚姻しても日本法により離婚できる。
フィリピン人は日本人と婚姻するとフィリピン法により離婚できないが、日本法により、日本人に離婚されることはある
 
 


2018/05/08

日本人はフィリピン人と婚姻しても日本法により離婚できる。
 
フィリピン人は日本人と婚姻するとフィリピン法により離婚できないが、日本法により、日本人に離婚されることはある。

 

もう少し専門的に述べると、フィリピン民法15条では、「家族の権利義務または人の身分、地位及び行為能力に関する法律は、外国に居住するフィリピン人にも適用する(Laws relating to family rights and duties, or to the status, condition and legal capacity of persons are binding upon citizens of the Philippines, even though living abroad.)」との規定があり、本国法主義を採用しているため、外国で暮らすフィリピン人にも、離婚を禁止するフィリピン法が適用されるからです。従い外国にいるフィリピン人も離婚が禁止されるが、日本で暮らす日本人は離婚を禁止するフィリピン法に束縛されないので、日本人は日本法により離婚することが可能で、日本人が離婚すれば、相手方のフィリピン人は日本法により離婚されたことになります。
 
では、日本人に離婚されたフィリピン人はどうなるのでしょうか???
 
答えはフィリピン家族法26条2項にあります。
 
 


2018/05/12

フィリピン家族法26条2項の原文と以下の翻訳を比べて見てください。
 
Where a marriage between a Filipino citizen and a foreigner is validly celebrated and a divorce is thereafter validly obtained abroad by the alien spouse capacitating him or her to remarry, the Filipino spouse shall have capacity to remarry under Philippine law.
 
フィリピン国民と外国人間の婚姻が有効に挙行され、その後、外国人配偶者が外国において有効に離婚判決を得て、再婚できるようになったときは、フィリピン人配偶者も、フィリピン法により再婚できるものとする
―明石出版 J.N.ノリエド著フィリピン家族法 奥田安弘・高畑幸訳 以下明石出版訳
 
フィリピン人と外国人が有効に婚姻しその後外国において離婚が有効に成立し、外国人配偶者が再婚する資格を得た場合は、フィリピン人配偶者もフィリピン法に従い再婚する資格を取得する。―日本加除出版 戸籍実務六法掲載翻訳 以下加除出版訳
 
 
二つの翻訳に微妙な違いがあることに気がつかれたと思います。この訳文の違いに、大切な示唆があるのですが、それは後で触れます。その前にフィリピン人が日本人に離婚された場合にどうなるかの答えですが、この条文から「国際結婚をしたフィリピン人は、日本で日本人から離婚されて、日本人が再婚できるようになった場合は、フィリピン人もフィリピン法により再婚できる」と読み取る事ができます。
キーワードは
①フィリピン人と外国人との婚姻であること(国際結婚であること)
②外国で離婚が成立する事
③離婚をした相手方外国人が再婚できること

 

日本人男性がフィリピ人女性(日比国際結婚の98%は日本人男性とフィリピン人女性の結婚)と日本で協議離婚した場合で考えてみると、日本人男性は離婚届を届出たその瞬間に、別な女性と再婚することができるので、条文を素直に読めば、日本人男性に離婚されたフィリピン人は、離婚と同時に再婚することができるということになります。
 
離婚ができないフィリピン人が外国人に離婚された時の救済措置と言えます。
 
 


2018/05/15

条文を素直に読めば、日本人男性に離婚されたフィリピン人は、離婚と同時に再婚することができるということになります。
ところが同時に条文上どうしても引っ掛かるところがあります。以下の原文の二つの訳を比べてみてください。
 
原文  a divorce is thereafter validly obtained abroad by the alien spouse
明石出版訳  その後外国人配偶者が外国において有効に離婚判決を得て
加除出版訳  その後外国において離婚が有効に成立し
 
下線部の翻訳が明らかに違いますね。
 
Obtained 「得る」「獲得する」「手に入れる」という意味なので
原文を直訳すると 外国で外国人配偶者が有効に離婚を獲得 となりますが、
なんのことかわからないので、加除出版訳は離婚が有効に成立し、と訳し
明石出版訳は条文の趣旨も盛り込んで有効に離婚判決を得てと訳しています。


このように翻訳に差異が生じるのは、明石出版訳は無味乾燥な条文をそのまま訳したのではなく、原本はフィリピン家族法のコメンタール(逐条解説)なので、条文の意味するところを盛り込んで翻訳しているからです。 何故なら原本では、「有効に離婚を得た」意味は、離婚できないフィリピン人が外国において、外国人によって、外国の裁判所で離婚が訴えられ、フィリピン人が敗訴した場合と解説されているからです。
 
 


2018/05/17

「有効に離婚を得た」意味は、離婚できないフィリピン人が外国において、外国人によって、外国の裁判所で離婚が訴えられ、フィリピン人が敗訴した場合と解説されているからです。
 
原本の著者Jose.N.Nolledo(J.N.ノリエド)は、Wikipediaなどによると現在のフィリピン憲法の作成委員会メンバーの一人で、168冊もの法律の専門書の著者となっている、フィリピンでは大変有名で権威のある法学者です。1958年の司法試験で正答率88.95%、第3位の成績で合格しています。因みにフィリピンでは司法試験の合格者の正答率が公表されるので、ベスト10にでも入るような秀才は大々的に報道され、その後の進路が決定づけられます。
 
この権威のある法学者が、フィリピン家族法26条のフィリピン人が再婚できる要件である、外国で外国人が離婚を得たとの条文の意味を、フィリピン人が外国で外国人によって、離婚訴訟を提訴され敗訴した場合と解釈しているので、裁判離婚を除く日本の協議離婚、調停離婚、審判離婚で離婚したフィリピン人は再婚できないとなってしまいます。
 
裁判離婚であったとしても、フィリピン人が原告となった裁判は認められず、外国人が原告となり、外国人に訴えられて、被告であるフィリピン人が敗訴(離婚判決)を得た場合に限定されてしまいます。裁判離婚での多くの割合を占める和解離婚も和解勧告にフィリピ人が合意しているのですから、フィリピンの裁判所で26条の要件を満たすか離婚である承認を求める訴訟を提訴しても否認される可能性はあります。
 
 


2018/05/19

条件はかなり限定され厳しいのですが、フィリピンの裁判所で26条の要件を満たす離婚(判決)である承認を求める訴訟(Judicial Recognition of foreign divorce decree)で承認判決を得ることができて、裁判が確定すると過去の婚姻挙行地の市民登録官(LCR)経由でフィリピン国家統計局(PSA)に外国での離婚の事実が登記されます。

 

日本人に離婚されたフィリピン人が再婚するためには、一般的には在日フィリピン公館から、読んで字の如く結婚する要件を備えていることを証する、婚姻要件具備証明書を入手し婚姻届出に添付して、市区町村の長に対して婚姻を届け出ますが、この婚姻要件具備証明書を取得するために、在日フィリピン公館によれば、承認判決文及び確定証明書、登記後の過去の婚姻証書と婚姻履歴証明書が必要としています。それぞれフィリピン外務省の認証も必要であるため、外国人に離婚されたフィリピン人が在日フィリピン公館より婚姻要件具備証明書を取得するために必要な書類が以下の4点となります。
 
① フィリピン外務省で認証を得た外国離婚(判決)の承認判決
  Judicial recognition of foreign divorce decree authenticated by
Department of Foreign Affairs(DFA)
② フィリピン外務省で認証を得た判決確定証明書
    Certificate of finality authenticated by DFA
③ フィリピン外務省で認証を得た離婚の事実が付記された過去の婚姻証書
    Annotated Marriage contract authenticated by DFA
④ フィリピン外務省で認証を得た離婚の事実が付記された婚姻履歴証明書
    CENOMAR Form No.5 registered foreign divorce
 
 


2018/05/22 

さて、明石出版フィリピン家族法の原本の著者Jose.N.Nolledo(J.N.ノリエド)の解釈が正しとすれば、日本での離婚で裁判(判決)離婚となるのは、全体の1.1%しかなく、さらに原告がフィリピン人となった場合も含まないとなると、日比国際離婚の100件の内1件あるかないかの確率となってしまいます。そのごく僅かの限定された条件を満たしたフィリピン人だけが、フィリピンの裁判所で承認判決を得ることができて、承認判決を得たフィリピン人だけが再婚できるのでしょうか????
 
論から先に申し上げると、極めて稀な一部のフィリピン人のみが再婚できるのではなく、日本人に離婚された全てのフィリピン人は再婚する事が実務上可能です。
 
経験(20年間で4000件以上の日比国際結婚のお手伝いをしてきました)に基づいて、少しずつ私の見解を述べていきますが、その前に日本加除出版社の戸籍に関する専門誌「戸籍時報」で昨年1月~7月(749号~756号)まで連載された、「フィリピンにおける外国離婚判決の承認及び婚姻無効・取消しについて(監修:大谷美紀子弁護士 編著:外国人ローヤリングネットワーク 以下連載記事)が大変参考となりますので、連載記事で述べられている見解を紹介します。
 
 


2018/05/24

「戸籍時報」で昨年1月~7月(749号~756号)まで連載された、「フィリピンにおける外国離婚判決の承認及び婚姻無効・取消しについて(監修:大谷美紀子弁護士 編著:外国人ローヤリングネットワーク 以下連載記事)では以下のように述べられています。
 
日本における離婚が協議離婚による場合や、調停ないし訴訟手続がフィリピン人によって提起されたものである場合には、原則としてフィリピンでは承認されないことを知っておかなければならない。(750号53頁)
 
単なる外国での離婚判決ではなく、本項の文言及び立法趣旨から、「外国人配偶者が原告として提起した」裁判によってなされた外国での離婚判決でなければならない。特に、この点が、当事者の合意による離婚、しかも裁判所が関与しない協議離婚という非司法手続による離婚を許容する日本法の下でなされた離婚が本項の要件を満たすかという、日本に居住するフィリピン人の離婚問題において特有の問題を提起することになる(751号49頁)
 
「日本で協議離婚をしたフィリピン人配偶者は、原則として、フィリピンの裁判所でフィリピン家族法26条2項に基づく承認判決を得る事ができない。(754号2頁)
 
 
以上のように、日本の協議離婚、調停による離婚、フィリピン人が原告となった裁判離婚は原則承認されないと断定しています。 例外としては以下のように述べられています。
 
 
日本の協議離婚は、外国離婚判決(foreign divorce decree)には該当しないことから、フィリピン家族法26条2項に基づく承認は認められないと考えられているようである。しかし、例外として、たとえば、フィリピン人配偶者が、外国人配偶者から子供を人質に取られて、協議離婚への署名を迫られたと言うような特別な事情があり、その立証に成功した場合には、フィリピン家族法26条2項の趣旨に鑑み、協議離婚が絶対に承認されないと言うわけではない。マニラ裁判所のJose Lorenzo R. DE LA ROSA判事によれば、同判事がこれまで扱ってきた日本の承認手続きでは、9割が協議離婚の承認を求めるものであり、そのうち協議離婚について承認したのは、ほんの数件に過ぎないということであった。
 もっとも、フィリピンには日本の協議離婚に該当する制度がないため、協議離婚の手続きや性質について理解をしていない裁判官も多く、知識の欠如ゆえに、協議離婚が承認されている例もあるようである。(752号17頁)
 
 


2018/05/28

「例外として、たとえば、フィリピン人配偶者が、外国人配偶者から子供を人質に取られて、協議離婚への署名を迫られたと言うような特別な事情があり、その立証に成功した場合には、フィリピン家族法26条2項の趣旨に鑑み、協議離婚が絶対に承認されないと言うわけではない」
 
このような協議離婚はそもそも有効なのでしょうか?
また、解決方法として連載記事では以下のように述べられています。
 
フィリピンにおいて日本の離婚が承認されない場合、フィリピン家族法上、婚姻無効(Declaration of Nullity)ないし婚姻取消(Annulment)の訴えを裁判所に提起することによって婚姻が解消することが可能である。(750号53頁)
 
フィリピン人が、既に日本で協議離婚をしてしまったけれども、フィリピン法の下で再婚の資格を得たい場合等には、2.3に述べたフィリピンにおける婚姻解消の制度である、フィリピン家族法に基づく婚姻無効・取消しの手続を取る必要がある。(754号2頁)
 
 
確かに、私が知る幾人かのフィリピンの弁護士も、日本の協議離婚に関して、フィリピンの裁判所に承認してもらうことを諦めて、婚姻無効判決で解決を図ろうとする者もいます。
 
 


2018/05/30

しかし、離婚が有効に成立しているにも関わらず、明らかに制度が異なる婚姻無効判決で便宜的に解決を図ろうとする手段にはどのような問題を内包しているのでしょうか?
 
しかし、例えば子供がいる場合は、子供の国籍は婚姻無効確認後においても、喪失しないのでしょうか。確かに事実上フィリピン人同士の離婚を認める制度とも言われるフィリピン家族法36条の規定によって婚姻が無効と確認された場合や婚姻が取り消されたて場合は、婚姻中に出産した嫡出子の身分関係に何ら影響を与えないため、日本においても法の適用に関する通則法28条から、婚姻無効後も子は嫡出子としての身分を有するとの結論が導かれます。
 
 


2018/05/31 

しかし36条以外で婚姻無効が確認された場合は嫡出子としての身分を当然喪失します。また再婚を認める26条2項の要件を具備したとして、フィリピンで離婚承認判決を得ないまま、既に複数回再婚を繰返し、複数回の婚姻がフィリピンの統計局に登録されている、在日フィリピン人も多くいますが、今後三度目、四度目の再婚をする際には、過去の全ての離婚に関して、フィリピンの裁判所で承認判決を得なければなりません。しかし離婚承認判決ではなく、安易に婚姻無効・取消しの手続を取った場合、例えば1度目の婚姻は36条で無効確認の判決が得る事が出来たとしても、無効な婚姻と雖も、婚姻無効確認の判決を得て、市民登録所に登記をしないでなされた後姻(再婚)は無効との規定が53条にあるため、二回目以降の婚姻は重婚により無効となります。
 
そしてフィリピンでは、重婚で無効な婚姻の場合、重婚の罪を犯したものには原告適格がないため、もはやフィリピン人から婚姻無効確認を訴える事ができず、行き詰まってしまいます。
 
 


2018/06/04

フィリピンでは、重婚で無効な婚姻の場合、重婚の罪を犯したものには原告適格がないため、もはやフィリピン人から婚姻無効確認を訴える事ができず、行き詰まってしまいます。
 
日本では重婚の罪を犯した者にも原告適格があるので、最初の日本人配偶者の本籍地に婚姻無効判決を届出て、二回目以降の婚姻に関しては、日本の裁判所で婚姻無効確認を訴え、無効確認判決を得る事が出来れば、婚姻無効判決をフィリピンの裁判所で承認してもらう事も理論上は考えられます。しかしが、それは、大変困難な手続となり、万が一成功しても、二回目、三回目との日本人配偶者の間に出来た子供の日本国籍は喪失してしまうでしょう。
 
その他親権に争いがあり、やっとの思いで親権をフィリピン人配偶者が得て離婚が成立した場合なども、36条によって婚姻が無効となり、嫡出子としても身分を有する子に関しては再度親権者を指定する必要はないでしょうか。また離婚時に決められた慰謝料の請求や夫婦財産の分配などの決り事等はどうなるでしょうか。実務の現場において色々な場面で混乱が生じることが予想されます。繰り返しになりますが、婚姻が無効になるということは当然有効な婚姻を前提として成立した離婚も無効となり、離婚により確定したすべての合意及び法的効果が否定されることになります。
 
従い日本の協議離婚が承認されないからと言って、安直に制度が異なる婚姻無効や取消によって解決を図るべきではないと考えられます。
 
 


2018/06/05

日本の協議離婚は原則承認されないという見解が広く流布されいますが、実際のところはフィリピンの最高裁判所で係属中の事案であり、弁護側は条文を文言解釈するのではなく、以下のように立法の趣旨から解釈して協議離婚やフィリピ人が合意した離婚に関しても承認されるべきであるとしています。
 
家族法26条2項は、Van Dorn vs. Romillo最高裁判決において「司法的正義を守るためには、フィリピン人配偶者が自国での不公平な取り扱いをされるべきではない」と宣言したフィリピン最高判所の判断に基礎を置くものであり、家族法26条の「外国において外国人配偶者が離婚を得た」という文言を厳格に解釈したとしても、外国人配偶者が離婚を得たという法的性質を妨げることがなく、家族法26条2項がどのような形態の離婚も排除していると推断することはできない(フィリピン最高裁判所係属中事件で弁護側の主張)
 
The second paragraph of Article 26 of the Family Code is based on this Court's decision in Van Dorn vs Romillo which declared that the Filipino spouse "should not be discriminated against in her own country if the ends of justice are to be served."In any event, it cannot be inferred from Article 26, second paragraph, Family Code, that the law intended to exclude any form of divorce, even if the words "obtained abroad by the alien spouse" were to be construed strictly
because a foreign divorce consented to by the Filipino spouse does not preclude a legal characterization of the alien spouse as having obtained a divorce. As things now stand, private respondent can be described, without fear of contradiction, as "having obtained abroad" a divorce.
 
 
よってフィリピン最高裁判所が終局の判断を示していない現状においては、日本の協議離婚がフィリピン26条2項の要件を満たし、フィリピンの裁判所に承認されるか否かを、我々のような専門家や関係者が臆断したところで意味はなく、フィリピンの最高裁判所の判断を待つべきであります。
 
 


2018/07/05

万が一日本の協議離婚が承認されないとの終局的な判断がフィリピン最高裁判所から示されたとしても、多くのフィリピン人が日本の協議離婚に応じている現状から、救済が必要であれば、フィリピンの立法府が何らかの措置を講じるはずであり、その場合は新たな制度に基づいて解決を図ればよく、制度が異なる婚姻無効の訴訟などで便宜的に解決を図るべきではありません。
 
っとここまで書いていたところでフィリピンの弁護士より連絡があり、重大な最高裁判決が(2018年4月26日)にでました。
 
簡潔に申し上げると、外国人ではなく、フィリピン人が原告となった裁判離婚が承認されないのはフィリピン家族法26条2項の趣旨に反するとの判決です。
 
この最高裁判決についても後日説明いたします。
 
この最高裁判決の担当弁護士は私と提携関係にあるフィリピンの弁護士ですが、連載記事で最も重要な最高裁判決であるFujiki事件を担当された弁護士と同じであります。
 
 


2018/07/1 

フィリピン民法15条は「家族の権利義務または人の身分、地位および行為能力に関する法律は、外国に移住するフィリピン国民にも適用する」とされているため、外国人と婚姻し、外国に在留するフィリピン人にも、離婚を禁止するフィリピン法が適用されます。よってフィリピン人は離婚を求めてはならず、若しくは離婚に合意してもならず、ただ外国人配偶者からの離婚の請求に基づき、離婚判決が確定したときのみ、26条2項に規定される「外国において外国人配偶者が離婚を得た」という要件を満たし、そのような離婚判決のみフィリピンの裁判所で承認され、フィリピン人は再婚できるとの主張には説得力があるようにも思われます。
 
しかし離婚が禁止されているフィリピン法においては、本来いかなる離婚も禁止されているのであって、外国人配偶者からの請求で離婚が確定した場合でも禁止されている離婚であることには何ら変わりがありません。
 
26条2項は、フィリピン人配偶者が自国での不公平な取り扱いをされるべきではない(Van Dorn vs. Romillo最高裁判決)と宣言された事が基礎となっており、外国人と婚姻し、外国に在留するフィリピン人も離婚が禁止されている事を前提に、それでも外国で離婚が成立してしまったことにより、結果生じてしまう、不合理な状態を回避することが目的(Republic v. Orbecido最高裁判決)であるなら、離婚の方法は問われるべきではなく、協議離婚も承認されるべきだと言うことになります。
 
 
 
日本の協議離婚について、フィリピンの裁判所で承認判決を得る事が出来るか否かは、フィリピン最高裁判所での判断が示されておらず、フィリピンの立法府において何ら議論された形跡すらありませんが、そもそも疑問を感じるのは、協議離婚も含めて、外国において外国人配偶者が得た離婚を、フィリピンの裁判所で承認を得て、フィリピンの市民登録所に登録することが、26条2項に規定されるフィリピン人の再婚の要件であるのかということです。
 
フィリピンの行政庁(在日フィリピン公館)の婚姻要件具備証明書の交付、同証明書に代わる証明書の交付、離婚報告の受理に係る過去及び現在の運用からは、フィリピンの裁判所で離婚の承認を得て、フィリピンの市民登録所に登録される事が、フィリピン人の再婚の実質的な要件ではないと推測されます。 
 
 


2018/07/12

 話は少し昔に戻りますが、時系列で整理すると、
2005年10月25日、Republic vs. Orbecido最高裁判決で、フィリピンの裁判所の承認判決を得る前に、外国での離婚の事実を主張するためには、外国での当該離婚が、26条2項の要件を満たす離婚であることを、外国法を証明して適合性も証明されなければならないと判示されました。これを受けて26条2項の要件を満たし再婚する資格を得るためには、フィリピンの裁判所で外国の離婚に関して承認判決を得なければならないと解されました。
 
2007年9月24日にフィリピン市民登録総監から全国の市民登録官へ覚書(Memorandum Circular No.2007-008) が発布され、外国の離婚を市民登録所に登録するためには、離婚承認判決文を添付しなければならないと告知されました。
 
2010年8月11日にはCorpuz vs.Daisylyn 最高裁判決で、フィリピンの裁判所で離婚承認判決を得ないで、登録された外国の離婚の登録は無効であり、何ら法的効果が生じないとされました。
 
 


2018/07/19

フィリピンの裁判所で離婚承認判決を得ないで、登録された外国の離婚の登録は無効であり、何ら法的効果が生じない。
 
フィリピン家族法では「登録」は重要な要件であり、婚姻無効確認や取消しの判決が確定してもまだ再婚は出来ず、市民登録所に「登録」されてから初めて、第三者への対抗要件を備え、再婚が可能とされています。
 
第52条 婚姻の取消しまたは無効の判決、夫婦財産の分割、子の養育費の支払いは、市民登録所と財産登記所に記録される。さもなければ、第3者に対して効力を生じない。
Article 52.
  The judgment of annulment or of absolute nullity of the marriage, the partition and distribution of the properties of the spouses and the delivery of the children's presumptive legitimes shall be recorded in the appropriate civil registry and registries of property; otherwise, the same shall not affect third persons. (n)
 
第53条 前条の要求を満たした後は、当事者はそれぞれ再婚することができる。そうでない再婚は無効である。
Article 53.
  Either of the former spouses may marry again after compliance with the requirements of the immediately preceding Article; otherwise, the subsequent marriage shall be null and void.
 
   
しかし、26条2項の要件を満たして再婚する場合は、市民登録所への「登録」は、少なくとも条文上は要求されていません。
 
 


2018/07/23

26条2項の要件を満たして再婚する場合は、市民登録所への「登録」は、少なくとも条文上は要求されていません。
 
2012年頃まで、フィリピンの裁判所で離婚承認判決を得ないで、再婚を望む在日フィリピン人に対して交付されていたCNO(Certificate of Objection)やCERTIFICATEには、それぞれ、「フィリピン共和国大使館に提出された宣誓供述書及び提出書類により婚姻に関する異議申し立てがないことを証明する」、「現在離婚状態であると宣誓したことを証明する。当人は、フィリピン国民と外国人とが有効に婚姻をし、その後外国人配偶者によりフィリピン国外において有効に離婚成立が得られ再婚できる法的資格を与えられた場合、フィリピン国法においてそのフィリピン人配偶者についても再婚できるとするフィリピン家族法26条2項(1987年7月17日公布の大統領令第227号により改正)の要件を満たすことを証明する。」と明記されていました。
 
つまりフィリピン人が再婚するための要件は、フィリピンの裁判所で外国での離婚に関する承認判決を得て市民登録所に登録することではなく、外国人に離婚された事を宣誓供述することで十分との解釈が前提とされていました。
 
私は、家族法26条は玉虫色に輝く規定であると思っていますが、外国人に離婚された事を宣誓供述することで十分に再婚するための要件は満たされるとの解釈には十分な説得力があり、長らく在日フィリピン公館などではそのように解釈され運用がなされていました。
 
 


2018/08/09

 フィリピン法では婚姻の基本的要件(実質的要件)は男女双方が法定の資格を有すること(2条1項)、婚姻をとり行う官吏(Solemnizing officer)の面前での、自由意思に基づく合意(2条2項)であり、形式的要件は、権限のある官吏により行われること(3条1項)、本編第二章の場合を除き、有効な婚姻許可証があること(3条2項)当事者が官吏の面前に出頭し婚姻の儀式を行うこと、および当事者が互いに夫とし妻とすることを成年の2名以上の証人の前で宣誓すること(3条3項)であります。
 
 基本的要件、形式的要件のいずれかが不存在の場合に関しては第4条で無効としていますが、基本的要件の瑕疵については45条で取消しすることができるとし(4条2項)、また形式的要件に従わない場合でも婚姻の効力に影響がない(4条3項)としています。
 
 形式的要件の準拠法を日本国内法として、日本の行政庁がフィリピン人側も婚姻の実質的要件(婚姻要件)を具備していると判断した場合には、婚姻届が受理されます。この成立した婚姻に関して、前婚の離婚承認判決文を添付しない限り、後婚が在日フィリピン公館で受理され、本国の統計局に登録されることはありません。
 
 ただし在日公館の運用で着目しなければならない重要な点は、後からでも前婚の離婚承認判決を得る事に成功すれば、後婚(フィリピンの裁判所で離婚承認判決を得ないで行った再婚)に関しても、在日フィリピン公館で受理され、本国の統計局に登録されるということです。
 もしも後婚が有効なものではなく、重婚であるとの解釈であれば、フィリピン法では重婚は無効原因であるため(35条)、後婚が有効なものとして登録されることはありえないはずであります。
 
 


2018/08/16

 このように、フィリピン家族法の規定と在日公館の実際の運用から、フィリピンで離婚承認判決を得ないで受理された婚姻届は、家族法3条3項に規定されている形式的要件に従っていないが有効な婚姻として解釈されていると思われます。またはより伝統的なカトリックの教義に由来する保守的思想を加味しても、3条2項に規定される基本的要件に瑕疵があるために取消し可能な婚姻とし、45条に規定される取消しの裁判が確定するまでは有効な婚姻として扱い、取消し事由が解消(前婚の離婚承認判決を得て登録した時)された時に、婚姻の報告を受け付けて統計局に登録できるとの解釈を採用していると思われます。
どちらの解釈を在日フィリピン公館が採用したとしても後婚は有効であることには変わりはなく、よってフィリピンの裁判所で離婚承認の判決を得ていなくても、その後に成立した再婚は跛行婚ではなく、ただ単にフィリピンの統計局に未登録ではあるが、フィリピンにおいても有効な婚姻と解釈できます。
この解釈に基づけば、フィリピン人の再婚のための実質的要件が満たされるのは、フィリピンの裁判所で外国の離婚の承認判決を得た時ではなく、家族法26条2項の条文にあるとおり、外国人配偶者が再婚する資格を得た時になります。
 


2018/08/18

 このブログの冒頭で申し上げた通り、このブログを読み進めていただき、フィリピン家族法の制度を深く知れば知るほど、頭の中が「もやもや」して、なんとなくわかったようで、わからなくなってきたのではないでしょうか?
「フィリピンは離婚が認められない国ですが、日本人と婚姻したフィリピン人は離婚できないでしょうか?」の回答は、日本人は離婚できます。フィリピン人は離婚される事はあります。離婚されたフィリピン人は条件を満たせば再婚できることになります。
 
「フィリピン人は離婚できないが、外国人に離婚されたフィリピン人は再婚できる。」
巧みな言い回しだとは思いますが、「賭博は禁止されているが遊戯であるパチンコはできる」、「軍隊は存在しないが自衛隊が存在する」と言っているどこかの国と同じで、建前を維持いながら、現実に則して解釈及び法の運用がなされているのだと思います。
 


2018/08/23

 歴史小説家の司馬遼太郎氏は、「江戸体制はむろん西欧風の法治国家ではなく、法はきわめて不備なものであったが、運用をうまくやることによって世の中が維持されていた。江戸人は、法の運用上手であるといっていい。(世に棲む日日 文春文庫)」とユーモラス且つ的確に法を執行する行政の本質について表現されていますが、フィリピンの婚姻の解消に関する法制(特に26条、36条)も伝統的なカトリックの教義に由来する保守的思想と、現実に即した革新的な思想の両方を取り入れた曖昧で玉虫色な法制であるため、執行する行政庁が上手に運用しないと現実的な秩序を維持できないと言えるのではないでしょうか。曖昧で玉虫色であることは必然と言え、光の当てよう次第で、つまり現実の法の執行、行政の運用次第でどのようにも輝いているとも言えます。