フィリピンの婚姻証明書3

再婚に係る本国の婚姻証明書が提出できない場合

 

2025/02/07

争点② (本件婚姻は有効に成立しているか)については、婚姻の形式的成立要件(婚姻の方式)の準拠法は、婚姻挙行地の法である日本法、実質的成立要件の準拠法は原告らの本国法であるフィリピン法であることを確認した上で以下のように述べられます。
本件婚姻の実質的成立要件の準拠法であるフィリピン家族法35条4号、4 1条1項本文によれば、重婚がされた場合、後婚は原則として当初から無効となるため、前婚の解消の有無(本件離婚の有効性)を決することが不可欠の前提問題となる。
渉外的な法律関係において、ある一つの法律問題(本問題)を解決するためにまず決めなければならない不可欠の前提間題があり、その前提問題が国際私法上本問題とは別個の法律関係を構成している場合、その前提問題は、本問題の準拠法によるのでも、本間題の準拠法が所属する国の国際私法が指定する準拠法によるのでもなく、法廷地である我が国の国際私法により定まる準拠法によって解決すべきである(最高裁平成7年(オ)第1 2 0 3号同12年1月27日第一小法廷判決・民集54巻1号1頁参照)
 
そこで、本件でも、本件婚姻の有効性の問題を解決するための不可欠の前提問題であり、かつ、国際私法上別個の法律問題を構成する本件離婚の有効性については、法廷地である日本の国際私法(通則法)によって定める準拠法に基づき決せられる。
外国人を当事者とする離婚の方式は、行為地法に適合する方式も有効とされる(通則法34条2項)から、本件離婚届出が受理されていることにより、離婚の形式的成立要件は満たしている(民法764条、739条1項)。
 以上によれば、本件離婚は、形式的成立要件及び実質的成立要件のいずれも満たし、有効に成立しているものと認められる。
(中略)本件離婚は有効に成立し前婚は解消しているため、本件婚姻は重婚に当たらない。また、そのほかに、準拠法であるフィリピン法に照らし本件婚姻の実質的成立要件を欠くような事情はうかがわれないから、本件婚姻は、フィリピン法に基づく婚姻の実質的成立要件を満たしている。
「本件婚姻は重婚に当たらない。また、そのほかに、準拠法であるフィリピン法に照らし本件婚姻の実質的成立要件を欠くような事情はうかがわれないから、本件婚姻は、フィリピン法に基づく婚姻の実質的成立要件を満たしている。」と、明確に判示されています。この判決及びこの判決の推移から先に発出された入管庁管第739号通知によって多くの在日フィリッピン人が救われることになったことはとても嬉しいことであります。
 


 

2025/02/04

令和6年6月25日、婚姻関係確認請求事件判決はフィリピンの婚姻証明書が取得できないことのみを理由に配偶者に係る在留資格変更を許可しなかった処分を不服とし、国相手に婚姻関係の確認を申し立てた事件です。そして原告らに婚姻関係があることを確認し、訴訟費用は被告(国)の負担とするとして、国側が控訴を断念したため令和6年7月11日に判決は確定しました。
以下訴訟の内容を詳しくみていきます。
主  文
1 原告らが婚姻関係にあることを確認する
2 訴訟費用は被告の負担とする。
婚姻関係確認請求事件の争点は、①本件訴えの適否(本案前の争点、争点①)、②本件婚姻は有効に成立しているか(争点②)でありました。
先ず争点①に関して、東京地方裁判所は、「原告らが国である被告に対して婚姻関係の確認を求めることの適否は、結局のところ、確認の利益が認められるか否かによって決せられるものである。」と述べ、確認の利益について「法務大臣の広範な裁量の下で永住者との婚姻の事実が在留資格の変更の許否の判断に係る考慮要素の一つにすぎないとの被告主張の一般論を前提としても、本件訴えにおける確認の利益が否定されるものではない。」とし国側の主張は退けました。
 


 

2025/01/30

一見当たり前のような主張が認められまでは、長い道のりでした。
時系列で関連する事件等も含めて整理してみます。
・平成29年3月29日付け法令適用事前確認手続照会書及び回答通知書
https://www.moj.go.jp/content/001222579.pdf
・令和2年10月12日付け法令適用事前確認手続照会書及び回答通知書
https://www.moj.go.jp/content/001330814.pdf
・令和3年11月 佐々木聖子入管庁長官及び総務課広報係に改善要求
・令和4年2月14日付け法令適用事前確認手続照会書及び回答通知書
https://www.moj.go.jp/content/001403184.pdf
・令和4年7月  佐々木聖子入管庁長官に上申書提出
・令和4年8月xx日 顧客Aフィリピンの婚姻証明書が取得できないことにより、技能実習から永住者の配偶者等への在留資格変更許可申請不許可 即日再申請
・令和4年8月xx日竹谷とし子参議院議員主催の意見交換会で入管庁と協議
・令和4年9月30日 日米同性カップル在留資格訴訟 国側に敗訴判決(高裁敗訴、上告審係属中)
https://www.call4.jp/info.php?type=items&id=I0000111
・令和4年11月x日 顧客Aフィリピンの婚姻証明書が取得できないことにより、技能実習から永住者の配偶者等への在留資格変更許可申請が許可できない旨の告知 出国準備期間としての特定活動30日間許可 
・令和4年12月6日 顧客A 原告らが婚姻関係にあることを確認する婚姻関係確認事件を東京地裁に提訴
・令和4年12月x日 顧客A 訴訟係属中を理由に特定活動30日から短期滞在90日への在留変更許可申請 即日許可 (その後特定技能へ在留資格変更)
・令和6年3月11日 入管庁管第739号通知が発出
・令和6年6月25日 婚姻関係確認請求事件勝訴判決言い渡し
・令和6年7月11日 国側の敗訴確定
・令和6年7月xx日 顧客A 特定技能から永住者の配偶者等への在留資格変更許可申請
・令和6年8月xx日 顧客A 永住者の配偶者等への在留資格変更許可
入管庁管第739号通知発出に至った要因は顧客Aが提訴した婚姻関係確認訴訟の推移が国側に不利だったためと思われます。判決期日前に問題点を解決、訴えの利益を喪失させて、棄却判決を国側が狙ったのかもしれませんが真因は不明です。
 


 

2025/01/16

令和6年3月11日、在留管理支援部在留管理課長より地方出入国在留管理局長及び地方出入国在留管理局支局長宛てに、入管庁管第739号通知が発出されました。そこには「再婚に係る本国の婚姻証明書が提出できない場合は、前婚の離婚届が本邦の市区町村で受理され、その後、再婚の婚姻届が本邦の市区町村で受理されていれば、外国人同士の婚姻の場合は婚姻届受理証明書の提出をもって、配偶者に該当すると取り扱って差し支えありません」と明記されました。
前婚の離婚届が本邦の市区町村で受理されとは、本邦での再婚の有効性(本問題)はそれに先立つ離婚の有効性(先決問題)から判断する(最高裁H12.1.27判決)と言うことで、法の適用に関する通則法27条から、前婚の離婚届が本邦の市区町村に受理されていれば、離婚の有効性は明確です。婚姻の有効性は当然、我が国の国際私法に基づき判断すべきで、外国法に基づく(外国官憲が発行する婚姻証明書の存在)で判断すべきではない事を、これまで一貫して当職らが主張してきましたが、主張が大幅に受け入れられたことになりました。